WANDERLUST

passport ヴァンダラストの冊子本

passport ヴァンダラストの冊子本

passportとは、WANDERLUST(有限会社マイピア)が発行する冊子本。
パンのこと、お店のこと、WANDERLUSTの取り組みのご紹介。
シェフ大村が会いたい人に会いに行くインタビュー企画や、コラムなど。
お店と地域の方々とを結びつけるメディアを目指しています。

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WANDERLUST passport vol.04
発行:有限会社マイピア
編集長:大村田(WANDERLUST)
編集/写真:寺居和美(AIR)
デザイン:善養寺良子
タイトルロゴ:Maniackers Design

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passport vol.3

WANDERLUSTの建物ができてから4年。成長した植物たちが、四季折々の表情をみせてくれる、WANDERLUSTのお庭。実は、パンだけではなくお庭のファンも多い。8月下旬のジリジリとうだるような暑さの中、お手入れ作業中の酒井さんにちょっと手を休めていただいて、涼しい店内でお話を伺いました。

「花を植えてみてもいいですか?」という提案から

── まずは、お二人の出会いからお聞ききしていいですか。

大村 お店を建ててくださったスタジオシナプスの植木さんのご紹介がきっかけです。当初の外構はもうちょっとシンプルに計画していたんですが、植木さんとお話ししている間にアイデアが膨らんでいって、野山とか日本の里山とかの緑をメインにしたイメージで進んでいきました。それで植木さんが、“そのイメージに合ういい方がいます”ということで酒井さんをご紹介いただいたのが最初です。

酒井 はい。それでお店の設計の段階で、まず打ち合わせに同席させてもらいました。

大村 WANDERLUSTは店舗を建てる前から、お店にまつわる様々なクリエイティブの方に関わっていただいていたので、酒井さんにも早い段階から参加していただいてイメージを共有してもらいました。

酒井 当初はこんなに花を植える計画ではなくて。大村さんと植木さんの共通のイメージとして、庭っぽくしたくないというのがありましたよね。

大村 そうですね、野山を歩いているようなイメージで。建物と植栽の関係性についてとか、お花よりもグリーンが多いほうが好きとかのイメージやリクエストを植木さんにずっと投げかけていて。酒井さんが参加してくれてからは、自分は素人だし、全部お任せでお願いしますって感じで。結果、自分の好みの感じは1、2割くらいは入ってるかなという。

酒井 こんなんなっちゃいましたというか…(笑)恐縮です…!

大村 いやいやいや、結果的に良かったです。自分はあまりお花のことは考えてなかったんですけど、酒井さんから提案があったのでお願いしてみました。そのお花がお客様にすごい好評なんですよ。チューリップとかもいつも珍しいものが咲いていて、お客様から色々聞かれるんですけど、酒井さんに全面的にお任せしているから自分は全然わからなくて、きちんとお答えできなくて申し訳ないです…。春はもちろんですけど、冬でもいつでも何かしら咲いています。

酒井  そうですね。何かしら咲くようにしています。

大村 そうやって緑だけではないお庭にしたことで、お客さまが来るたびに褒めてくださったり、写真を撮ってくださったりと。やっぱり、自分の少ない知識の中で想像するよりも、酒井さんに全部お任せしたからこそなんですよね。今はむしろ酒井さんがどんな提案をしてくれるのか、楽しみに待っています。

酒井 田さんの好みに沿うように進めていたんですけど、ある時点から「任せます。」と言ってくださったので、どんどん私の色が強くなっちゃったみたい(笑)

── 庭が出来上がった時も、改めて「任せてよかった。」と感じたと。

大村 ええ。要は自分も職人みたいなところがあるから、「餅は餅屋」という意識があるんですよ。なので素人の自分が口を出すよりは、もう酒井さんのプロの感性で思いっきりやってもらった方が、結果としていいものが生まれるじゃないですか。

酒井 ありがとうございます。それで、だんだん花を植えるようになって、予想以上にお客様が立ち止まって反応してくれたり、時間をかけて写真を撮ってくれていたり。庭を見に来たことがきっかけでWANDERLUSTのお客様になった方もいるんですよ。たまたまお越しになった方とお話する機会があって、「自分のうちのお庭づくりの参考に、定期的に見に来ているんですよ。」なんておっしゃっていただけて、すごく嬉しかったです。

大村 あとプロはすごいなと思うのは、緑の集合体というか、全体で庭を見ているというところですよね。この集合体で見ると、別にひとつひとつの種類については、何でもいいと言ったら失礼ですけど、どこに何が植わっているというよりは、全体として素敵であるっていうことが大切なんだなと。だから自分からはこれといった注文をすることがなく、お任せしています。

── 庭を手入れし続ける時に大切にしていることはありますか?

酒井 宿根草っていって、毎年出てきて咲く種類の花があるんですけど、その宿根草をメインにしながら、一年草を組み合わせていくことですかね。宿根草が年々育つ姿を見守るよさもあって。WANDERLUSTも表のピンクの花も去年と比べたら今年はワッと多く咲きましたね。宿根草の花の時期が終わって空いちゃって寂しいな、というときは一年草を入れてみたりして組み合わせています。私も自宅の小さな庭で同じようにしていて、一般の方がご自宅の庭を作るのと感覚はそう変わらないんです。だから、お客様も参考にと見に来てくださるんじゃないかと思うんですよね。

── 手入れされているのに自然な感じがする庭ですよね。

酒井 「手入れされてないように見えるけど、手入れしているんですよね。」って言われたこともあります(笑)。

大村 それは、やっぱり緻密なプロの仕事ですよね。

酒井 すごくローメンテナンスだと思いますよ。普通はもっと手入れは頻繁だと思います。ただ、あまり手をかけすぎず自然な感じが私は好きで。WANDERLUSTのお客様も好きと言ってくださるのでありがたいです。

── お客様からの好評に加え、プロの方からも評価されていると思うのですがいかがですか?

大村 そうそう、別のご縁の造園業の方と庭の話になったとき、酒井さんと同じような庭は作れないと言ってました。造園の領域だけだとこうはいかないらしいです。酒井さんは木だけでも花だけでもなく、守備範囲が広くて特別なポジションの方ですよね。建築の目線でお店を見に来る人も多いんですけど、いつも庭を大絶賛していきますよ。線が際立つ造形の建物の周りに力強く植物があって、あわせて一つの完成形ですね、という感じで評価していただいてます。お店がオープンしたての頃は植えたばかりなので、今と比べたらどうしても植物の主張が弱かったんですが、4年経って生い茂ってきて、建物と植物のバランスがちょうどよくなってきました。

── ある時から、入口の前にとても大きな鉢を置くようになりましたよね。初めて見たときは圧倒されました。

大村 あれも酒井さんのアイデアです。

酒井 外で手入れをしていると、お客様から入口を聞かれることが割と多くて。建物自体のデザイン性が高いから、他でありがちな普通の自動ドアみたいなのを予想してくると、一見わからなくなっちゃうのかな。私たちはいつも居るから「入口はここ」みたいな認識があるけど、初めての方にとってはそうなんだ、という気づきがあって。それで、大きな鉢植えを使って“玄関”という感じを出すということを提案しました。今ではもう迷う方はいなくなりましたね。

大村 酒井さんが両手を広げてサイズ感を提案してくれたときに、結構大きめのが来るんだな~と心づもりはしていたんですけど、実物が来ると改めて「めちゃでかいの来た!」と圧倒されました(笑)。結果的にはいい感じです。

── WANDERLUSTの店舗内のインドアグリーンは、酒井さんの息子さんの俊介さん(※)が担当していますよね?森が成長していくような雰囲気で、店内もすごいカッコイイです!

大村 そうなんですよ!このジャングル感がすごく好評です。外の庭ともリンクしているし、この世界観は誰にやってもらっているの?って話題にのぼることも多いですよ。俊介さんは、最初は店内の大きな木の鉢に下草を取り入れる提案をしてくれて、それがすごく良くて。もう全部お任せして、店内の大小いたるところの鉢に下草を入れてもらって継続して手入れしてもらっています。ワシャっとしてるこの感じ、ほかではなかなか無くてカッコいいですよね。

── 俊介さんも酒井さんの仕事を見てその道に進もうと思ったんですか?

酒井 うちの息子は14年ほど会社員として勤めていたのですが、辞めて何か別のことをやると考えたら、一番身近な私がやっていることがまず頭に浮かんだ、みたいな感じですかね。だからまだ経験も浅いし勉強させてもらいながらですが、よろしくお願いします。

大村 自分もそのことを最近知りました。「辞めるときはめちゃめちゃ反対されました。でも、母を見ていたら自分もその道に行きたくなりました。」って俊介さんから聞きました。いずれ俊介さんが外の庭づくりのほうも継ぐとかいう話はないんですか?

酒井 もともと医療業界で働いていてたのもあって、病院とかクリニックの緑化をしたいとインドアグリーンから始めたようですが、私の仕事を手伝っているうちに外の庭もやりたいと思うようになったみたいですね。なので外はまだ修行中ですが、自分の家の庭なら遠慮なくできるので、私がダメ出ししながら木の剪定をやってみたりしています。ご近所さんからも頼まれて、刈り込みをやらせてもらったり、会社員の頃のご縁でいくつか外のお庭やベランダガーデンなどもやらせて頂いたり。ちょっとずつできることからですね。

大村 中も外も両方できたら無敵ですよね。すごくニーズがあると思う。都会になればなるほど庭がなくなってくるから、室内が重要になってきますよね。パン屋の友人にもWANDERLUSTは誰がやっているの?って必ず聞かれます。外もですけど、都内は特に、中はニーズがあると思いますよ。

酒井 息子に伝えます。励みになると思います。

枯れた姿も楽しむ、より自然で植物の主体性に任せた庭

── 酒井さんのお仕事についてさらに詳しく伺っていきたいのですが、WANDERLUSTの庭や他での様々なお仕事の中で、今後やりたいことや方向性はありますか?

酒井 最近は特に植栽をメインで頼まれることがすごく多いので、そちらを主にしていきたいなと思っています。植栽の分野はいま、世界的なガーデンショーであるチェルシーフラワーショーとかを見ていても傾向が変わってきていて、『NATURALISTIC GARDEN(ナチュラリスティック・ガーデン)』という、より自然な感じにしていくことが大きなムーブメントになっています。例えば、グラスってイネ科の草とかを取り入れたり、花であれば咲いた後も枯れた花殻や立ち姿も楽しむというような。植物の主体性に任せてより自然な方向へという、大きな波が今はあるんですよ。私もその感じをもっと突き詰めていきたいなと思っています。

大村 酒井さんって業界的にはどういう肩書になるのですか?ガーデナーですか?

酒井 ガーデナー、ガーデンデザイナーとも言うけど、割と特殊な領域ですね。ただ、私みたいな仕事をしてる人は増えてきていると思います。特に女性のガーデンデザイナーは多いですね。神奈川の服部牧場というところの一角にナチュラリスティックな宿根草ガーデンがあって、今、庭づくりの人たちの中ではかなり注目されていて、こぞってみんな見に行っている所なんですけど、そこのガーデナーの方も女性で、自分でデザインして植栽しているそうです。
世界的ムーブメントの先駆者と言えば、ピート・アウドルフさんってガーデンデザイナーがいらっしゃるんですが、有名なところだと、ニューヨークの空中庭園・ハイラインのガーデンデザインを担当した方で。

大村 ああ、ハイラインの感じは自分も好きです。 酒井 ハイラインは、マンハッタンの廃線になった手つかずの高架線路を公園化したプロジェクトで、アウドルフさんはニューヨークの自生の野草とか宿根草を植えて庭を作ったんです。やはり冬の枯れた姿の美しさも楽しむという、より自然に近い庭なんですよ。もうその新しい美意識が世界にワッと広がって、日本中にもその波が来ています。先日、全国都市緑化フェアで北海道に見に行ってきて改めて感じました。

植栽活動で人や街と繋がっていきたい

── そのほか庭づくりに関わっている人々の中で、酒井さんが刺激を受けている方っていますか?

酒井 度々お話ししている宿根草ですが、私が庭に使いたいような宿根草って探さないとなかなか手に入らないんですが、最近はナチュラリスティックな宿根草の苗をメインに就農独立して始めた方もいらして。その生産者さんや、街のお花屋さんやフローリスト、インスタグラマーなど様々なお花に関わっている人が、有志で仙台の駅の何気ないところを緑化して、多くの人が花とふれあえる「花降る街、仙台」という活動をしていて。そのほかの地域でも、いくつかそういった市民を巻き込んだ植栽活動のグループがあるんですね。 そういったつながりを私もぜひ作っていきたいなと思います。
熊本での活動の中心になっている女性ガーデナーがいて、その方はピート・アウドルフさんとも親交があって。ピートさんのデザインをその方が植栽したガーデンが、日本のよみうりランドの中に最近できて、庭づくりの新しいムーブメントを日本で発信する場所になっています。私も微力ながら、そういったことをやっていきたいなと思っています。

── ここWANDERLUSTでも市民の人たちとそういう植栽活動が行われたら、また多くの出会いのきっかけにもなりそうですね。
酒井 市民の方を巻き込んで、ボランティアワークショップみたいなことができたらいいですね。

大村 あと、WANDERLUSTのお客様を巻き込んで、『酒井さんのガーデン教室&庭仕事』みたいなものもできるといいですね。お客様が酒井さんのお弟子さんとなって一緒に手入れをしながら、最先端を学ぶことができるという。

酒井 いいですね。太田でね、そういうことができるといいですよね。

大村 やりましょう!

(※)店内インドアグリーン担当 酒井俊介 (ブルームストーン代表)

インタビュー/岡田ジュン(AIR) 記事/武井仁美 写真/寺居和美(AIR)

ホスタガーデンズ

群馬県高崎市のエクステリア&ガーデンデザインの設計施工オフィス。
外構とエクステリアと庭が自然につながる居心地の良い庭づくりを提案します。

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